ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)は、“自律感覚絶頂反応”と日本語訳されている。非常にリアルな音声を用い聴覚を刺激し、気持ちのいい感覚を味わえるコンテンツのことを指す。特にバイノーラル録音技術を用いて収録された音声をイヤホンで聞くと、まるで収録された空間に身を置いているかのようなリアルな音を聞くことが可能になる。

バイノーラル録音の原理は、自分自身の耳たぶや体の各部の存在によって複雑に回折・反射した音波も合わせて記録したものを、ステレオ・ヘッドフォンで聞けば、録音時と同じ音場を感じられるというもの。基本的な方法は、実物大の人形の鼓膜の部分にマイクロフォンを埋め込んで録音する。頭部および肩口までを再現したダミー・ヘッド(またはHATS – ヘッド・アンド・トルソー・シミュレータ)と呼ばれるものがよく用いられる。

バイノーラル録音技術自体は、主に自然の環境音の収録や機械や構造物の音場環境の測定などの用途で昔から存在していたが、Webの普及にともないその音源が発信されるにつれ、その臨場感への驚きとともに多くの人が知ることとなった。安価なバイノーラルマイクが発売されるようになったのは、約5年ほど前のこと。

その技術を用いたASMRコンテンツは、音響による極端な臨場感を快感として表現する。現在では食やVRと組み合わせたりなど、様々なコンテンツの開拓が行われていて、現在では主にYouTubeなどで配信されており、世界的に確立しているジャンルと言えるだろう。日本でもこれから伸びしろがありそうだ。

音を扱う業界は、AP3圧縮技術の普及で一度はある意味で落胆を呈した。“良質な音声は求められていないのか”と。しかしスマートフォンの普及で動画によるコミュニケーションのかたちが広がるにつれてイヤホンを使う頻度が上がり、(ヘッドマウントVRの普及も相まって)立体音響の需要も意識されるようになったのかもしれない。これから4G、5Gと通信技術が向上するにつれて、音声のクオリティーの需要は戻っていくのではないか。